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              硫黄岳(北アルプス)途中敗退の巻き

期  日 2017年9月9日(土)〜11日(月)
参加者 椛澤単独
タイム  9日;新穂高鍋平登山者用P8駐車場5:50〜6:05−新穂高温泉6:40−白出沢出合8:00−槍平小屋10:00−千丈乗越13:20−2020m地点15:30幕営
     10日;幕営地点5:40−引き返し点8:00ー幕営点9:35ー千丈乗越14:00−槍平小屋16:50(泊)
     11日;槍平小屋6:45−白出沢出合9:10−鍋平駐車場11:50

9日

新穂高温泉周辺の駐車場は全て満車、仕方なく鍋平の登山者駐車場に止めた。
この駐車場から槍・穂高への登山道へは一旦下らなくてはならず、時間ロスする。
新穂高登山道が私の行く方向で、ここの位置をしっかり確認しておかないと、帰りにどこに行って良いのか戸惑う。
成る程これは確かに登山者用の道であった。

ようやく新穂高ロープウエイ駐車場まで戻れた。
その前に新穂高センターでトイレを借り、出たところでは係の人が一人一人に声を掛けていた。曰く登山届は出しましたか?と、積極的なお勧めをしていた。私は持ってきた計画書のコピーを提出した。
  提出が確認されると名刺大のカードを戴ける。
裏側には携帯電話の通話が可能な地域が分かるQRバーコードも有って便利な情報だ。
これを見ると大キレットは危険区域から除外されているな。 
しばらくはこの様に退屈な車道を行く。
穂高平小屋前では早くも休憩する登山者がいた。
白出沢出合到着。
ここで車道は終わり。
次に滝谷出合に建つ避難小屋、内部は綺麗に清掃されていた。
滝谷出合ではやはり登山者がくつろいでいた。
手前に木橋が見える。
轟々と流れる滝谷の水は白波が立って凄い水量。
さっさと渡った。
藤木九三のレリーフ
槍平小屋到着。雲一つない青空。
小屋の前ではそれぞれにくつろぐ。
小屋からはしばらく樹林帯を行く。
涼しくて気持ち良い。
森林限界付近に最後の水場が有り、喉を湿してから千丈乗越に向かう。
振り返ると槍ヶ岳方向へジグザグに登山道が見えた。
また上空にはガスがかかり始めた。
千丈乗越到着。
この後のルートは冒頭の地形図の赤線が実際に歩いたところ。
千丈乗越から千丈沢を俯瞰。
今日の幕営地は、見える場所から更に下らなくてはならない。
一切の踏み跡は無く、ガレ場の連続。
明日登ろうとする硫黄岳のピークが見える。(赤い岩尾根を右に辿ると黒いピークが有るが、あれが硫黄岳である。
途中でテントを張っていた、ソロの登山者がいてビックリした。
聞くところによると、私と同じく硫黄岳に登りたいが、今日偵察してあまりにも急な岩場の連続で断念、代わりに赤岳に登った、と言っていた。明日は湯俣に下りたいと言っていたので、下流に行くと水量が増えているので渡渉は難しいから止めた方が良いです、と言って止める私だった。埼玉県在住と言う30歳代後半か40歳位の精悍な男性で、その若さが羨ましかった。
長話しているうちに時は過ぎ、一時間程下ったところで、大水が出ても流されない高台にテン場を確保、幕営しようと準備にかかった。
すると、あれー?ポールが無〜い。瞬間焦ったが、直ぐに気を取り直し、ストックをテントの中心に立て四隅を張り綱で引っ張れば立派なテントの出来上がり。
テン場の下はこの様な千丈沢の本流が流れていて水には困らない。
しかし疲れていて食欲が無い。
アルファ―米と漬物を無理やり食べて、安定剤を飲んで、まだ6時半だと言うのに寝てしまった。
10日
朝が来た。
何か食べようとしたが、胸の気持ちが悪く、何も食べたくなかった。
今日はサブザックで硫黄岳往復するだけ、帰ってきたらまたここで寝るだけなので気持ちが楽だった。歩けばそのうちお腹が空くだろうと思い食べなくても大丈夫と言い聞かせた。
しかしダラダラと準備をしていたら時間のたつのは早く朝日が昇ってきた。
硫黄岳への取り付きまでは1時間位と見込んでいたがいくら下っても中々着かない。
水量が多いところは高巻いたりヤブを漕いだりして下る。
すると砂の上にくっきりと熊の足跡が有った。
形が崩れていないから今朝の足跡かも?
すると近くに居るのかな?
もう2時間以上下っているのにまだ取り付き点に着かない、熊の気配が濃厚、下りなのに藪漕ぎを強いられて、これでは登頂してからテン場に帰れないかも?それにも増して気持ちが悪くなる一方。
無理やり口に手を入れて胃の中を空にした。苦しくて涙が出た。

そしてもう駄目だ、引き返そうと決意した。
今引き返せば今日中に新穂高温泉まで帰れるだろうと甘い考えが湧いてきた。
まだ気持ちには余裕が有り、硫黄尾根の険しい山稜を写真に撮ったりした。
これでは硫黄尾根からの硫黄岳登頂は完全に無理だなーと思った。
そうだ!ここまで来た証の写真を撮らなくては!
左上を見上げると北鎌尾根が険しい岩稜を覗かせていた。
人の声もあの稜線方面から聞こえてきた。
テン場到着。
朝出発してから早くも4時間が経過していた。
偶然見つけたテン場も、去ると思えば寂しい気持ちになる。
幕営地を出て千丈乗越に向かうのだが、昨日間違わない様に赤いテープを目印にしたことをすっかり忘れ、流れに沿って上流に登り、地形図にコンパスを当ててみて、何かおかしい?と感じた。
帰りだからGPSは要らないと思っていたが、ここでGPSの電源を入れて初めてルートミスをしていた事に気付いた。登った分だけ下ると、そこにはこの赤テープがしっかりとあったのであった。
川幅が広いので右岸沿いに歩けば良かったものを、左岸側を歩いたので見落としてしまったようだ。
少しづつ高度を上げると硫黄岳(一番右)がこんもりとした頭を見せ始めた。
何も食べられないし、水さえも舐める程度しか喉を通らない状況下では、体力がドンドン減退してきて、歩く速度は遅くなる。
100m登ってはひと休み

未練の硫黄岳はドンドン遠くなる。

それよりも、果たして千丈乗越まで登りきる体力が有るのか、不安が襲うようになってきた。
へばって休んでいると上の方から賑やかな声が聞こえてきた。
それは槍ヶ岳山頂からの声だった。600mm望遠レンズが捉えた写真(左は小槍で中央のピークに点の様に見えるのが人)
昨日は下るのに2時間だったが今日の登りは4時間半もかかってしまった。
これでは到底新穂高までは下れないので、槍平小屋に電話して泊めさせて頂こうと思った。
早速電話すると、男性の声で優しく「大丈夫です、気を付けていらしてください。」とのお言葉。ああ良かったー、とその場にへたり込む私だった。
千丈沢はキレイに晴れていたのに飛騨沢はガスが上がってきて真っ白だった。
槍ヶ岳からの合流地点まで急ではあったがつまずく事も無く下ってきた。
此処には救急箱が設置されている。
と言う事は何かしらの事故か怪我をする人が多いのだろうか?。
途中最後の水場で水を飲んだが、飲んだ分すべてを吐き出してしまった。
やっとの思いで槍平小屋に到着。蚊の鳴くような声で名前を名乗るのだった。
電話では2食付のお願いだったが、夕食は食べられそうも無いので朝食付きに変えて頂いたが、優しい受付の人は快く受け入れてくれた。
何て良い人なのだ!と思って涙腺が緩みかけた。
何も食べないのは良くないと言われ、お勧めに従ってゼリー状の飲料とポカリを夕食代わりに購入して枕元に置いた。
11日
朝食の時間だったが、食欲が無いのでゆっくり食堂に行ってみた。
すると「椛澤様ですか?大丈夫ですか?」と先ず女性従業員の一声から始まった。
何て心遣いの行き届いた小屋なんだ、と思いまたもや涙腺の緩みを歯を食いしばって堪える私だった。
結局、小女子の佃煮を1〜2匹、梅干し一つ、漬物一切れとお茶にみそ汁の汁のみ食べただけだった。周りの人たちは食事も済んで誰も居ない食堂で1人ボーっとしていたが従業員は邪魔にもせず見守っていてくれた。
部屋に帰ると男性が近づいてきてお話しした。話し方が気になり聞いてみると高崎市の人で奥様と二人で槍ヶ岳に登ってきたと言う。奥様がやはり調子が悪く、何も食べられないらしかった。小柄で若く見えた御仁は私より10歳も年上だった。こちらのコースが気に入っていて、もう5回も来ていると言う。
よたよたと下る。
昨日は見なかったが滝谷に滝が見えた。
白出沢出合には冷たい水がホースから溢れていた。その水を頭から被ると、頭が冷えてとっても気持ち良かった。
横に居たオジサンが気持ちよさそうですねーと言った。
そのオジサン(私より若いのかな?)としばらく並んで歩いた。定年になり、やっと自分の時間が持てるようになり、好きな山歩きが出来て嬉しいと言っていた。全く同感であった。
穂高平小屋に着いたので、コーラをくださいと言ったら、無い!と怒られた。

でも私が休んでいると後から来た4人組の登山者もコーラが欲しいと言っていた。槍ヶ岳だが双六周りで行ってきたと、皆さんとてもうれしそうで気持ちがハイテンション。
私の元気ない姿を見て「アミノバイタルGOLD」を下さった。
何て良い人たちなんだ!

単独で歩いて居ると見ず知らずの人とお話が出来て良いと思う。
今回は花の写真を意識的に撮らなかったが、この花の色に負けて一枚撮った。
アカバナユウゲショウかと思ったがゲンノショウコだった。白い花が多いので白しか無いのかと思っていたが違った。
ゲンノショウコは下痢止めの薬らしい、それも飲むと直ぐに効くのだそうだ。
最初は駐車場まで歩くと思っていたが、体調を考えて新穂高ロープウエイに乗って一区間だけ乗った。
荷物は6キロ以上有りますか?との切符売り場の人に尋ねられて「ハイ」としか答えられなかった。100円はお安いね。
鍋平高原駅で降りて駐車場へ行くのに、道が解らなくなりそうだった。がしばらく歩いてようやく自分の車にたどり着くことができた。

この後、温泉で三日間の汗を流し、道の駅「奥飛騨温泉郷上宝」で焼肉定食を食べ、帰途に就いた。
あれ?定食をぺろりと食べられたよ?
下山すると治る病気かなー?
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